バブル期の温泉旅館経営者のガラガラポンは、延々続く。ホテル大野屋の民事再生法適用。
観光地・リゾート地と言葉はイロイロあるが、根源的には、不特定多数の人々が何か楽しみを求めて、継続的に訪れる場所と考える。それでそこに経済活動が発生するわけだが。
だから、理想的な条件としては、1年を通しての魅力がないと、一時的には繁栄しても長くは続かない。1年を通して温暖な赤道周辺に位置するリゾート地は、美しい海岸、海洋レジャーで世界中の憧れの地として、観光客が訪れる。ハワイ・タヒチ・バーミューダ諸島等々限りがない。
また遺跡リゾートとしては、やはり欧州の国々がダントツであろう。まぁ、日本では京都といったところか。そしてアーバンリゾートとしては、ニューヨーク・ロスアンジェルス等々の都市の空間に身を置くことがリゾート地としての魅力となる。東京は日本一の観光地とも言えよう。
その点、日本ではひとえに温泉観光だった。温泉の出るところは、周りが田んぼだらけでも、そこに温泉旅館(ホテル)さへ建設すれば、全国からお客が集まった。温泉さえあれば、商売が出来、また昔は、一般国民の居住環境は質素だったので、そこで夕食・朝食の部屋出しというビジネススタイルが定着していった。
このビジネスモデルは、世界でも珍しいもので、且つ経営者側にとって大変合理的なのである。世界のスタンダードは、宿泊代+(朝食)で夕食は館内のレストラン又は館外のレストランとなる。日本の場合、宿泊者は必ずそこの夕食を喰らうわけで、それもメニューは、ほとんど同一。同じ日本人だから料理に宗教的禁忌は発生しない。だから食材に無駄がない。だから民家に毛が生えたような小さな旅館でも、それなりに営業が出来た。
それで、戦前・戦後とも全国各地温泉の湧き出すところは、温泉観光地となり、それなりにやっていけた。また温泉発掘の技術も大幅に発達して、昔は数百メートルが限度だったのが、数千メートルも可能となり、全国どこでも温泉観光地が可能な時代となってきている。
温泉の浴場も、当初単なる屋内風呂から、併設された露天風呂が人気となり、どこでも余った敷地、または、不利用だった屋上などに、無理やり露天風呂を造っていったものだった。
そして、1980年代後半から90年代初頭には、バブル全盛で各金融機関は競ってこれら温泉旅館業にも融資をしまくった。それまであった温泉旅館は、競って施設のグレードアップをするようになっていった。全国の魁(さきがけ)となったのは、山代温泉の「ホテル百万石」や和倉温泉の「加賀屋」などなど。これらが従来の温泉旅館のグレードを大幅に引き上げた。
従来なら、例えば、建設費15億円ぐらいが相場だったのを、20億円、30億円掛けなくては、そのグレードに追いついていけなくなっていった。そこで経営者は設計者・建設会社の尻を引っ叩いて、高額・高級化の建設路線を突き進んでいった。もちろん設計者・建設会社は利益が倍になる。金融機関はカネを借りてくれ、どんどん貸しますよと。それでも夕食事付き温泉旅館のビジネスモデルでは、客が増加しさえすれば、短期に返済できる目算はあったのだが。
しかしそれぞれ三者とも、先々の経済の見通しや、温泉旅館業の将来性などを完全に読み違えていた。しかも、金融の異常緩和だったことが分からず、経営者は自分の才覚が認められたと錯覚して、本業の旅館投資のみならず、ゴルフ場投資や、他の分野に融資のカネをばら撒いていったのが結果だった。今の中国バブルを絵に描いたような現象だった。
今回倒産(民事再生法の適用)のホテル大野屋の場合もその典型だろう。
ローマ風呂で有名な「ホテル大野屋」経営株式会社大野屋本店民事再生法の適用を申請2010/11/19(金)
(株)大野屋本店(資本金1億円、熱海市和田浜南町3-9、代表大野茂正氏、従業員115名) は、11月19日に静岡地裁沼津支部へ民事再生法の適用を申請し、同日保全命令を受けた。申請代理人は橋本正夫弁護士(熱海市田原本町9-1、電話0557-86-5111)ほか2名。
当社は1934年(昭和9年)に温泉旅館として創業され、65年(昭和40年)4月に法人改組した。客室数174室、収容人員1040名の大規模ホテル「ホテル大野屋」を経営、熱海温泉では最大手クラスにランクされ「ローマ風呂の大野屋」として全国的知名度を誇っていた。80年2月には総工費35億円を投じて本館を増改築、さらに87年7月には20億円を投じて旧館を取り壊して新築し、収容力拡大を図っていた。
バブル期には団体客の利用が好調だったことから客室稼働率は高かったが、その後の景気低迷で客数は毎期減少基調を強いられ、2004年12月期の年収入高は約9億9000万円と10億円を初めて割り込んでいた。近年も客数の減少に歯止めがかからず、この間、ホテル設備の大半を銀行借入に依存してきたことに加え、収入減少が続くなか、毎期欠損計上を余儀なくされ、債務超過のもとで厳しい経営を強いられてきた。
その後も業績は好転せず資金繰りは多忙化、金融機関とは弁済条件などの交渉を行ってきたが不調に終わり、事業を継続するために民事再生法の適用申請を選択した。 負債は約21億5000万円、うち金融債務は約18億円。
このホテルは、戦前からの老舗旅館で、戦後は一時占領軍も多く宿泊していた。もちろん戦前からの有名な文化人も利用していた。ローマ風呂が有名で、特にここが混浴だったのが非常にウケテいた。3代前の経営者は、大野市郎という代議士で、1952年から落選も含めて1976年まで7回の当選だった。しかし入閣は出来なかったが、その間、日本温泉協会の会長も務めた。もともと大野屋旅館は新潟県長岡が発祥で、今回舞台となった熱海以外に京都などいわゆる旅館チェーンを築いていた。
そんなこんなで、古くなった施設を取り壊し、第1期の新築、1980年には本館の新築、そして1987年には、古くなった目玉のローマ風呂の場所を変え、新ローマ風呂やコンベンションホール、高級客室の増設などを計り完成させた。オイラもその設計に携わった。ちょうどその建設中に東京目黒で療養生活をしていた大野市郎が亡くなって、そのころ叔父筋が社長だったのに変わって、長男の英市が社長となった。弟はあの有名な音楽家の大野雄二だ。
そのころ聞いた話では、建設資金の一部は、新潟や京都にあった大野屋旅館を売却して、それに当て、融資自体はそれほど多くはないというものだった。当時は新潟・京都も土地バブルで、かなり高額な売却金であっただろうと想像する。
しかし、当時の第1の躓きは、カナダのバンフ国立公園内のホテルを買収したことであろう。ここは熱海と同じように温泉がある。ホテルロビーに入ると、階下にある温泉プールがガラス越しに見えるという、それほど大きくはないがユニークなホテルだった。
友人の旅館経営者も参加しての経営が始まったのだが、やはり白人社会での日本人経営はあらゆる面で厳しい。このころは有り余る金融機関からの融資で、日本人が米国・カナダのビルやホテルや会社を買った時代だった。結局バブル崩壊で、これらを高値で買って、安値で売る羽目になり、営業赤字の累積も含めて、この損失は相当な額だと思われる。
今、中国の投資家が、日本の不動産を買い漁っているが、不動産は自分の国には持っていけない。やがて安値で売るしかない。ただただ、それまでの間、金満家が維持してくればいい。これは、全米商工会議所の会頭の言葉だ。その定説をそのころ米国・カナダ・豪州で日本の投資家は行っていたわけだ。皆そのころ有頂天だった。ついでに自分用のコンドミニアムや住宅やクルーザーまでも購入した時代だった。
このホテル大野屋は、それ以後の全国の温泉観光地化にお客を取られ、特にポリシーとしての団体客の減少に追いついていけなかった。まぁ、「ホテル百万石」の倒産も似たような構図だったのでろう。借金の利息返済と尚且つ営業赤字からの運転資金の融資の返済。それでも先代の社長の時代では、多くの人脈もあり、それなりに経営はこなしていただろう。商工会議所の会頭も数期務めていた。
しかし、時代の流れとして、中国人の観光客を捕らえるという新しい戦略も加えて行こうと友人の旅館経営者と共に展開をしていった。しかし突然悲劇が起こった。その友人の旅館で行われた、中国人観光関係者を歓迎しての懇親会で、中国式カンペイをやりすぎたせいなのか、その深夜の帰り、自宅の玄関に通じる敷地内通路のガケから転落して、動けなくなり、ちょうどその夜はとても気温が下がっていて、凍死という悲劇が起こった。2007年の11月19日のことである。
偶然なのかどうなのか、ちょうど今回の民事再生法(倒産)の申請は、同じく11月19日に行われている。ちょうど父親の命日に当たる。先代の英市社長の息子である大野茂正が社長を引きついたが、確かまだ30歳代だと思う。今回の倒産劇は、融資していた金融機関の一部が、 一括弁済を求め、それが不可能なことから、地元弁護士を申請代理人として申請をした。父親の死後ちょうど3年目である。
新社長も、新しい戦略を練っていただろうが、コナミと組んで「ラブプラス+」とういうオイラほとんど理解できないことで、ホテルの知名度を上げる試みをしていたようだが、そんな子供次元相手の方法で増客に結びつくとは思えない。金融機関が融資を見限ったとしか思えない。今回の倒産は破産ではなく、民事再生法の適用で、出入り業者の未払い金はほとんど無いとのことだから、これからも営業としては続けていくとのこと。さてこれから先、営業戦略としてはどのような展開をしていくことだろう。
中国人・韓国人の誘客戦略については、あくまでも一過性に終わると思う。ウォン高の時は、韓国人のお客が増えたが、ウォン安になればほとんど韓国からは来ない。中国がバブルの今は、中国観光客狙いで、街の案内板には、韓国語、中国語表示。しかし温泉旅館の宿命は、温泉浴場に愛着があるのは、日本人だけであること。もちろん初めてでは、物珍しくての需要はあるのかもしれないが、リピートとしての需要はない。この感覚は、中国人も白人と同じなのだ。但し、一部台湾・韓国・中国にも似た様なものはあるが、これは昔、日本人が広めたもので、全般的なものではない。
オイラ何度も、白人に温泉旅館の浴場に案内も兼ねて入らせたが、施設があれば大浴場に入るが、無くても日本観光には一向に支障がない。オイラ、中国人・韓国人のチンポコを目に触れたいとは思わないと同様に、白人もアジア人のチンポコを見るのはあまり好きではないのだろう(笑)北欧や一部を除いて、同性の他人同士素っ裸で、風呂には入るって習慣がないからね。案の定、案内した白人達は再度の入浴の催促は皆無がほとんど。
時代は変わり、バブル期、有頂天になって投資した旅館経営者は、かなりが借金の苦渋から逃れることが出来なく、競売や安値売却で、旅館業から撤退をし、その後を新規の旅館経営者となっている。莫大な借金の重圧がないので、小額投資で新しい温泉旅館経営をしている。もちろん人件費が掛かる食事の部屋出しは省略され、ビッフェスタイルがほとんどとなっている。2食付一泊1人1万円以下。当初珍しかった、この営業もこの頃はアッチでもコッチでもやり始め、数年前には予約で一杯だったのが、そうでもなくなってきた。
中には、いくつもの買収旅館をチェーン化した営業展開も多くなってきた。ただこれから懸念されるのは、先代経営者がほとんどオーナー社長で、その旅館に愛情こめて維持した精神があったが、これら新しい経営者はその気持ちは少なく、一時的にキャッシュフローで稼げれば、その旅館を使い捨てて行くだろうということ。そしてその旅館チェーン経営も、最近は危ない噂が湧いてきている。そしてその後は、廃墟となった旅館が累々と晒されることになる。
これは、仕方がない。戦後国内景気が上がるなかで、全国各地温泉旅館が造られすぎた結果なのだ。いわば現在から見れば粗製乱造に突っ走った結果だ。海外のホテルの水準から見れば、規模的にも中途半端であり、とにかく箱にお客を閉じ込める式がほとんどだった。だから一泊2食付部屋出しのビジネスモデルだったわけだが。今やほとんどの日本人も、海外のリゾート事情に精通してきている。日本の温泉旅館を彷徨うより、海外の施設を選ぶ方を優先するようになって来ているし、カラダがそれに慣れてきている。
もし、日本のリゾート産業のなかで、温泉浴場に頼るモデルがなかったら、果たしてどのようなリゾート施設を造ったであろうか。多分もっと多様な展開のホテルが開花したかもしれない。もしもの話で意味はないのかも知れないが。
結局結論としては、温泉旅館(ホテル)は、日本人の為の、日本人対象の、日本人しかその良さが分からないリゾート施設なのかもしれない。そう、これは日本人の特有な文化の一つなのだろう。しかしそれにしては質的に日本の宿泊料金は高すぎるとおもわないか?
一粒で二度おいしいオイラのブログ:今日の画像
仮に、フランスのリゾート地のニースで
高級ホテルをアット・ランダムに調べて見た。
もちろんシーズンオフのディスカウント料金だが。
一室2人で利用として、一室13,789円÷2人 ≒ 1人一泊料金は6,900円だ。
ただ残念なことに、温泉大浴場はない。(笑)
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コメント
高級和風旅館やホテルの料金は、確かに高額ですが、民宿や、低料金の施設はたくさんあります。 例えば、大阪では、西成の簡易宿泊所が、建設業の衰退から日雇労働者が激減したことから低料金のホテルに転換し、宿泊する外人旅行客が増えています。
個人的には、関西に住んでいることから、一泊せずとも名所旧跡の旅は、日帰りで充分です。 老後は、京都と奈良の名刹を時間をかけて訪れようと思っています。 歴史と伝統のある地に住む利点ですね。 何も時間と金をかけてまで、縁も所縁も無い地を旅することはありません。
外国旅行をしても短期間では、絵葉書を観るような旅に終ります。 外国語を習得してネットで情報を得るようにすれば一時の旅行よりも有益と考えていますので、英語とドイツ語を学習していても、かの地に行きたいとも思いません。 しかし、最近始めたフィンランド語では、一度、北欧の地に旅をしたい、と思うようになりました。 二度もソ連と戦い、祖国を防衛したこの国を観たいのです。 救国の英雄、フォン・マンネルハイム元帥の墓にも詣りたいですし。
投稿: とら猫イーチ | 2010年11月23日 (火) 19時06分
結局ホテル大野屋は、民事再生法は受託されず
金融機関から会社更生法の申請ということに。
会社更生法の場合には、執行者は全て解任ということになりますね。息子社長も奥様取締役も解任。
すぐ近くにある、豪華な屋敷も追い出されることになると思います。
投稿: アタミ人 | 2011年2月 9日 (水) 17時59分